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専門家5人が語る「争続」の種と解決方法:第5回

司法書士が解説 – コロナ禍における遺言書作成の現状と自筆証書遺言書保管制度とは?

相続 不動産を活用した相続

不動産を活用した相続
写真:中島 美樹

記事執筆

中島 美樹

一般社団法人 東京都不動産相続センター 代表理事
司法書士法人あかし 代表司法書士

目次

相続のお取り組みとして多くの方が用いている遺言書。コロナ禍において、遺言書の作成件数に変化が表れました。
相続で揉めないための準備について解説する連載『専門家5人が語る「争続」の種と解決方法』最終回の本記事では、遺言書作成の現状と変化のひとつの要因である昨年制度が始まった「自筆証書遺言書保管制度」について解説いただきます。

1. 遺言書の種類

遺言書の種類として一般的に用いられているのが、自筆証書遺言公正証書遺言です。
自筆証書遺言は、全文(財産目録を除く)を遺言者本人が自筆で書く遺言書で、最もハードルが低く作成できる遺言書です。一方、公正証書遺言は、公証人関与のもと作成するため、遺言書の要式に不備があることはなく、確実に遺言書を残すことが可能です。

司法書士などの専門家が遺言書作成のサポートをする際には、公正証書遺言で作成することをお勧めしていますが、コロナ禍でこの公正証書遺言の作成件数に変化が起きています。

2. 遺言書作成件数の変化

2-1. 公正証書遺言の作成件数

日本公証人連合会が公表しているデータによると、公正証書遺言の作成件数は、令和2年は9万7,700件となっており、令和元年(平成31年)の11万3,137件と比べると、1万5,437件減少しています。過去10年間で順調に伸びていた件数が、令和2年に大幅に減少しているのです。

遺言書作成件数

出典:日本公証人連合会『令和2年の遺言公正証書の作成件数について』
法務省『遺言書保管制度の利用状況』のデータより弊社作成

減少している要因として考えられるのが、コロナ禍における外出自粛と、もうひとつは自筆証書遺言書保管制度の開始です。

公正証書遺言を作成する際には、公証役場へ出向くか、外出が難しい方には公証人に出張で来ていただくことになります。介護施設に入居されている方が公正証書遺言を作成するときもありますが、外出が難しい場合には介護施設まで公証人に来ていただき遺言書を作成します。しかし、コロナ禍で外出を自粛したり、介護施設への訪問が制限されてしまったりしたことが、公正証書遺言の作成件数に影響したと考えられます。
さらに、公正証書遺言の作成件数の減少の要因のもうひとつが、令和2年7月に運用が開始された、自筆証書遺言書保管制度です。

2-2. 自筆証書遺言書保管制度の利用件数

自筆証書遺言書保管制度についての詳細は後ほど解説しますが、法務省の発表によると、自筆証書遺言の保管件数は令和2年7月~令和2年12月の6カ月で1万2,576件におよびます。公正証書遺言の減少件数が約1万5,000件でしたので、公正証書遺言の代替として自筆証書遺言書保管制度を利用していると考えられます。

3. 自筆証書遺言書保管制度とは

自筆証書遺言書保管制度は、遺言書を法務局で保管をしてくれる制度で、保管申請の際には、自筆証書遺言が民法の定める要式に適合するか、形式的なチェックを受けることができます。

3-1. 遺言書保管までの手続き

① 自筆証書遺言書を作成する

② 保管をする遺言書保管所(法務局)を決める

すべての法務局で保管ができるわけではなく、保管ができる法務局=遺言書保管所は決められています。下記の3つの中から、利用しやすい場所を選ぶことが可能です。

  • 遺言者の住所地を管轄する遺言書保管所
  • 遺言者の本籍地を管轄する遺言書保管所
  • 遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所

③ 遺言書の保管申請書を作成する

遺言書の保管申請書に必要事項を記載します。申請書は法務省のHPや法務局で取得することができ、遺言者の氏名・住所・本籍などのほか、受遺者・遺言執行者などの情報や死亡時に通知を希望する場合には通知の対象者の情報を記載します。

④ 遺言保管所に予約をとる

②で決めた遺言書保管所に予約をとります。

⑤ 遺言書保管所に出向き、保管の申請をする

必ず遺言者が遺言書保管所に出向くことが必要です。遺言書・保管申請書・住民票の写し・顔写真付きの身分証明書・手数料を持参して、申請をします。

⑥ 保管証を受け取る

遺言書を管理する保管番号が記載された保管証が発行されたら、保管手続きは終了です。

3-2. 手数料

申請1件につき、3,900円の手数料がかかります。手数料は収入印紙で納付します。保管年数に応じて手数料が変わるわけではなく、申請時に定額で手数料がかかります。

4. 自筆証書遺言書保管制度のメリット・デメリットは?

4-1. メリット

① 遺言書の形式的な要式を満たすことができる

遺言書保管の申請時に、遺言書としての要式を満たすか形式的なチェックを受けることができるので、せっかく遺言書を書いたのに、要式を満たしていなかったために遺言書としての効力がなかったということがありません。

② 紛失の恐れがない、破棄・改ざんなどを防げる

これまで自筆証書遺言を作成した際には、自分で保管をする必要があったため、紛失してしまったり、遺言者が亡くなった後に見つからなかったりということがありました。
また、遺言者が遺言書を書いたことを知った推定相続人が、遺言書を破棄したり、内容を改ざんしたりということがありますが、遺言書保管所に遺言書を保管することによって、これらを防ぐことが可能です。

③ 検認が不要

自筆証書遺言を作成し、遺言者が亡くなったときは、家庭裁判所で遺言書の「検認手続き」を経る必要があります。
検認とは、相続人に対して遺言の存在や内容を知らせるとともに、相続人立会のもと遺言書を確認し、検認日時点で遺言書が存在していることを明らかにして、偽造されることを防ぐための手続きです。検認手続きは1カ月くらいかかることもあり、亡くなった後すぐに相続手続きができないというデメリットがあります。それを理由に、検認不要な公正証書遺言を作成するということもあります。
しかし、自筆証書遺言書保管制度を利用した場合、検認が不要となるため、この点は自筆証書遺言書保管制度を利用する大きな理由になると考えられます。

④ コストが低い

保管申請時に手数料がかかるものの、公正証書遺言作成時の手数料と比べたら、金額は低いです。この金額で形式面のチェックをしてもらえるというのは、大きなメリットになるでしょう。

4-2. デメリット

① 必ず遺言者が出向く必要がある

遺言書の保管を申請する際、必ず遺言者が遺言書保管所に出向く必要があり、代理人が代わりに申請するということができません。そのため、ご高齢で外出が難しいなど、遺言者が遺言書保管所に出向くことができない場合には、この制度は利用できないことになります。

② 遺言書の内容のチェックはしてもらえない

メリットとして遺言書の要式を満たしているかチェックしてくれることを挙げましたが、チェックしてくれるのはあくまでも形式面だけであって、記載した遺言書の内容が正しいかのチェックや相談にはのってくれません。例えば、「長男に不動産を相続させる」と記載してあったとしても、対象不動産の記載の方法が、相続登記に使える記載の仕方をしているかまではチェックしてくれないのです。
司法書士などの専門家は、遺言書の形式面だけでなく、トラブルなく相続できるかなどの内容面もチェックします。自筆証書遺言書保管制度を使う場合でも、内容面のチェックを専門家に任せると万全な相続のお取り組みになるでしょう。

5. これからの生前のお取り組みに求められることとは?

コロナ禍において、外出や人と会うことを自粛しているため、人と話をする機会が減り、相続の悩みを聞いてもらう場所が制限されています。遺言書を作成しておけば、トラブルを未然に防ぐことができたのに、それが叶わなかったということも出てくるかもしれません。公正証書遺言や自筆証書遺言書保管制度など、ご自身の環境にあった制度をうまく利用することが、よりこれからの生前のお取り組みに求められていると考えられます。

記事執筆:中島 美樹(司法書士)

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写真:中島 美樹

記事執筆

中島 美樹なかじま みき

一般社団法人 東京都不動産相続センター 代表理事
司法書士法人あかし 代表司法書士

プロフィール
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東京司法書士会所属。司法書士試験合格後、司法書士試験の受験指導の講師を経験。都内司法書士法人で登記業務に従事し、その後独立開業。
年間100件近くの相談実績から、まずは現状を把握していただいたうえで、提案をオーダーメイドしてまいります。人生に何度もあるわけではない相続という経験を、心穏やかに過ごしていただくため、争いを防ぐ財産の分配方法を提案することはもちろん、なぜそのように財産を分配したのか想いの部分を大切にし、相続に心を込めた想いが続く想続を目指し、お客様のサポートをさせていただきます。
一般社団法人 東京都不動産相続センターhttps://fudosan-sozoku.or.jp/

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